伊豆スパークリングワイン爽輝2023:ドサージュと旨味が織りなす感動のハーモニー

ドサージュで変わるワインの表情

先日、念願叶って伊豆スパークリングワイン爽輝(そうき)の2023年ヴィンテージを味わう機会を得ました。以前から話には聞いていましたが、実際に口にするのは初めて。このワインを語る上で避けて通れないのが、「ドサージュ」という、スパークリングワイン造りの奥深さを知る上で非常に興味深い工程です。そして今回、私が特に心を奪われたのは、この爽輝に宿る「旨味」でした。今回は、私が実際にテイスティングした中で感じた、このドサージュと旨味の魔法についてお話したいと思います。

「ドサージュ」って何?私が納得したその役割

正直なところ、以前は「ドサージュ」と聞いてもピンと来ていませんでした。専門用語で難しそう、くらいに思っていたのです。しかし、今回爽輝について詳しく伺う中で、その具体的な工程と重要性がストンと胸に落ちました。

簡単に言うと、スパークリングワインは瓶の中で二次発酵というのをさせて泡を作るのですが、その発酵が終わると、澱(おり)という沈殿物が出てきます。これをきれいに取り除く「デゴルジュマン」という作業の後、減った分のワインを補うために、糖分を含んだ同じワインを加えるのです。これを「門出のリキュール」と呼びます。この門出のリキュールを加える作業こそが「ドサージュ」。そして、このとき加えるワインにどれくらいの糖分を入れるかで、ワインの甘辛度が決まるのだと知りました。

ドサージュ4g/Lがもたらす口当たりの妙

今回の伊豆スパークリングワイン爽輝2023は、1リットルあたり4グラムのドサージュをしているとのこと。これは、昨年の爽輝(2022年のヴィンテージ)が「ドサージュ・ゼロ」、つまり糖分を全く加えないタイプだったと聞いて、個人的にかなり驚きでした。同じ銘柄でも、年によってこんなに調整が変わるのか、と。

爽輝2023に宿る「旨味」の秘密:瓶内二次発酵が引き出す奥深さ

さて、いよいよ本題の味わいです。グラスに注がれた爽輝2023に口を近づけると、まず甘やかな香りがふわりと立ち上りました。これは信濃リースリングの香りを感じさせるもので、この時点で「お、これは期待できるぞ」と心を掴まれましたね。

そして一口含むと、その香りの印象そのままに、心地よい甘みが広がります。一般的なスパークリングワインの「パリッとした辛口」というイメージとは少し異なり、角が取れたような丸みのある口当たり。これはまさに、今回のドサージュが狙った「多岐にわたる人に楽しんでもらえる味わい」なのではないかと直感しました。前回はドサージュ・ゼロのため、より辛口な印象だったので、今年のこのバランス感には感銘を受けました。

酵母が創り出す「旨味」の正体

そして、私が特に感動したのが、このワインから感じられる豊かな「旨味」です。スパークリングワインの多くは、大きなタンクでまとめて二次発酵させますが、爽輝は一本一本750mlの瓶の中で二次発酵を行っています。この瓶内二次発酵こそが、旨味の秘密だと教えていただきました。瓶の中で酵母が糖分を食べ尽くし、泡を作り出すと、その酵母は役目を終えて自己分解を始めます。この自己分解の過程で、酵母内のタンパク質がアミノ酸へと変化し、それがワインに溶け出すことで、私たちが感じるまろやかな「旨味」となるのです。

大きなタンクで大量に醸造するのと異なり、一本の瓶という限られた空間で行われる発酵と熟成は、酵母がワインとより密接に触れ合う時間を生み出し、それが複雑で深みのある旨味へと繋がっているのだと感じました。わずかに感じる穏やかな苦味も、この豊かな旨味を引き立てるアクセントになっているようです。

毎年変わる「顔」、爽輝の飽くなき探求と将来への期待

爽輝の製造哲学について深く知るにつれて、造り手が毎年最高のワインを造るために、どれだけ繊細な調整を行っているのかがよく分かりました。ブドウの出来栄えやその年の気候によって、ドサージュの有無や量を細かく調整することで、常に最高の状態の爽輝を世に送り出しているのです。

例えば、シャンパーニュの世界では、同じ生産者でも「ブリュット」と「エクストラ・ブリュット」のように、異なる甘辛度のタイプを造り分けていますよね。将来的には爽輝も、「ドサージュ・ゼロ」の年と今年の「ドサージュあり」の年を、例えばラベルの色を変えるなどして分かりやすく表現していくのも面白いな、と勝手に想像してしまいました。それこそ、ワイン愛好家にとっては「今年はどんな爽輝が来るんだろう?」という楽しみが倍増するはずです。

 


終わりに

伊豆スパークリングワイン爽輝2023を体験してみて、単に「美味しい」というだけでなく、その背景にある造り手の情熱と、ドサージュという緻密な技術、そして瓶内二次発酵がもたらす豊かな旨味の奥深さを強く感じることができました。口にした瞬間に広がる甘い香りと、後からじんわりと感じる旨味のバランスが本当に秀逸で、飲み飽きしない魅力があります。

ぜひ、皆さんも一度、この伊豆スパークリングワイン爽輝2023を味わってみてください。そして、私が感じたような、繊細な味わいの変化や、造り手の意図、そして日本の伊豆だからこそ生まれたこのスパークリングワインの「旨味」をぜひご自身の舌で感じ取っていただけたら幸いです。